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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)9189号 判決 1995年12月11日

原告

佐古井勉

被告

坂口圭治

主文

一  被告は、原告に対し、三二八万四〇五二円及び内金二九八万四〇五二円に対する平成二年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを七分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金二五四八万二六八七円及び内金二三四八万二六八七円に対する平成二年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、普通乗用自動車と自転車が衝突し、自転車の運転者が負傷した事故に関し、右運転者が、普通乗用自動車の運転者に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一)  日時 平成二年一一月二七日午後七時三五分ころ

(二)  場所 大阪府守口市桜町二四番地先路上(以下「本件現場」という。)

(三)  加害車 被告が運転する普通乗用自動車(大阪五二ろ一九六三、以下「被告車」という。)

(四)  被害車 原告が運転する足踏み自転車

(五)  事故態様 被告車が本件現場道路を西から東へ走行中、本件現場の横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)上で被害車と衝突したもの

2 被告の責任

被告は、被告車を保有し、自己のためその運行に供していたのであるから、自賠法三条により損害賠償責任を負う。

3 本件事故により原告に以下の損害が発生した。

(一) 治療費 二四〇万九二一〇円

(二) 装具代 二七万〇三二〇円

(三) 通院交通費 一九万三四四〇円

4 損害のてん補

原告は、本件事故の損害のてん補として、自賠責保険より一三八三万円、任意保険会社である共栄火災海上保険相互会社より四九六万四一九四円の合計一八七九万四一九四円の支払いを受けた。

三  争点

1  過失相殺

(被告の主張)

原告は、自転車に乗つたまま傘を差しながら、左方から来る被告車の動向に十分な注意を払わないで漫然と被告車の前方を横断しようとした過失があるから、過失相殺されるべきである。原告の過失は三割を下らない。

(原告の主張)

被告は、前方に横断歩道が設置されているのであるから、減速徐行して横断者の有無を確かめ、その安全を確認して進行する義務があるのにこれを怠つて進行した過失により、折から横断歩道上を自転車を押して歩行し、自転車に乗車しようとした瞬間に衝突したものであるから、本件事故は被告の一方的な過失によるものである。

2  本件事故と原告の痴呆症状との相当因果関係・寄与度減額の有無

(原告の主張)

原告は、本件事故により脳挫傷、急性硬膜下血腫、外傷性水頭症等の傷害を受け、痴呆症状を残して症状固定し、自賠法施行令二条別表の等級表(以下「等級表」という。)五級二号に該当するとの認定を受けたのであるから、本件事故と原告の痴呆症状との間には相当因果関係がある。

(被告の主張)

原告は、本件事故により脳挫傷、急性硬膜下血腫の傷害を受けたが、右傷害は平成二年一二月末には治癒していたから、その一年余の後に発症した痴呆症状と本件事故との間には相当因果関係はない。

仮に相当因果関係があるとしても、原告が本件事故前から有していた脳萎縮による脳室拡大の素因に、本件事故による受傷とは関係のない頸椎前方除圧固定術や脳室腹腔短絡術による負担が影響して痴呆を招いたといえるから、原告の痴呆の発症には原告の右素因が大きく寄与しており、相当割合による寄与度減額がされるべきである。

3  損害

第三争点に対する判断

一  争点1(過失相殺)について

1  前記争いのない事実及び証拠(甲二、原告、被告)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件現場は、市街地にある片側一車線の東西に延びる道路に設置された信号機のない横断歩道(本件横断歩道)であり、付近の状況は別紙交通事故現場見取図(以下「図面」という。)のとおりである。右道路は、車線幅が各三・三メートルのアスフアルトで舗装された平坦な路面であり、最高速度時速三〇キロメートルの規制があり、車道・横断歩道とも前後の見通しはよい。本件横断歩道は、横断歩道の標識があり、その付近は照明により夜間でも明るい。本件事故当時、小雨が降つていて路面は湿潤していた。

(二) 被告は、被告車を運転して、東西道路の東行車線を時速約三〇キロメートルで直進し、図面<1>で前方の本件横断歩道と右前方の図面に立つていた歩行者を発見したが、横断しないと思い、減速せずにそのまま走行した。図面<2>で右前方八・六メートルに位置する図面<ア>の自転車に気付き、急ブレーキをかけてハンドルを左に切つたが及ばず、図面<3>で被告車の右前角が図面<イ>の自転車と衝突し、自転車は図面<ウ>に倒れた。

(三) 原告は、本件事故当日、パラパラ程度の雨が降つていたので傘を自転車の前籠に入れて自転車に乗つて帰宅中、本件横断歩道南側にさしかかつて一旦停止し、左右を確認して大丈夫と判断し、早く渡ろうと前籠に傘を入れたまま自転車のスピードを出して渡ろうとしたところを被告車と衝突した。

被告は、原告が傘をさしたまま自転車に乗つて本件横断歩道を横断しようとした旨供述するが、本件事故当時、パラパラ程度の小雨が降つていただけであること、原告が本件横断歩道を早く渡ろうと自転車のスピードを出していたこと等に照らし、被告の右供述は信用できない。

2  以上の事実によれば、本件事故の主たる原因は、前方に本件横断歩道があり、南側手前に歩行者がいることを認識していながら、同じ方向から自転車に乗つて横断しようとした原告を八・六メートルに至るまで気付かなかつた被告の前方不注視の過失にあると認められる。他方、原告にも、本件横断歩道南側手前で、左方(西方)から走行してくる被告車に十分な注意を払わずに横断した落ち度が認められるから、前記した事故態様を考慮すれば、原告の過失割合を〇・五割と認めるのが相当である。

二  争点2(本件事故と原告の痴呆症状との相当因果関係・寄与度減額の有無)について

1  証拠(甲三の1ないし14、四の1ないし17、五の1、2、八の1、2、九ないし一四、一五の1、2、一六、一七、乙一の1ないし8、二の1ないし3、三ないし一三、検乙一ないし一六五、証人箕倉清宏、同天羽正志、原告)によれば、原告の症状の推移、治療経過等は、以下のとおりであることが認められる。

(一) 原告(昭和六年九月二二日生で、本件事故当時五九歳)は、平成二年一一月二七日、本件事故により医療法人弘道会守口生野病院(以下「守口生野病院」という。)に入院し、箕倉清宏医師が主治医になつた。原告には、入院時に意識障害Ⅱ(診察時はグラスゴー・コーマ・スケール一四ないし一五程度)があり、CT写真上左頭頂部に硬膜下血腫が認められ(なお、クモ膜下には髄液があるため、出血があつても、ある程度流れてしまうことでCT写真上明らかにならない場合がある。)、脳挫傷によるものとみられる右片麻痺と右顔面神経麻痺の症状が出ていたが(CT写真では分からない脳挫傷、たとえば、びまん性の脳神経損傷が存在している可能性がある。)、その後、保存的治療により意識障害は回復し、血腫も少なくなつて軽快に向かい、同年一二月二二日に退院した。その後、同病院にて通院治療し、頭痛・四肢のだるさはあつたが、血腫は小さくなり、平成三年二月一日には職場復帰し、同年五月二〇日まで勤務した。

なお、右職場復帰までの通院実日数は三日である。

(二) 原告は、同年二月九日ころから、両手の痺れ・だるさ、歩行時ふらつき、力が入らないなど四肢の筋力低下の症状を訴え、箕倉医師は、深部腱反射二頭筋以下の亢進、MRIによる第三ないし第四と第四ないし第五頸椎の硬膜脊髄管への圧迫を認めたので脊髄症と診断し、しばらくは経過観察を続けた。しかし、右症状がなかなか改善されなかつたので、同年五月七日と翌八日に、原告を検査入院させた上、同年六月六日に入院させ、翌七日、第三ないし第四頸椎の前方固定術(腸骨から採取した移植骨を挿入する手術)を施行した。その所見から、椎間板は変性、後方は骨化し、硬膜管が圧迫され、後縦靱帯の深層が穿破され、浅層は充血していたこと等が判明し、原告は、同年七月一日まで入院して治療を受け、、同日退院した。なお、平成三年二月以降同年六月ころまでの通院実日数は一四日である。

(三) 原告は、右退院直後は、両下肢に力が入り、体の動きもスムーズになつていたが、同年八月ころより四肢の筋力低下を訴え、歩行しにくい状態になつた。箕倉医師は、原告の右症状に加え、移植骨が圧潰気味であり、また脳室拡大が認められ、正常圧水頭症が窺われたので、同年九月二六日から同月二八日の三日間、検査入院させて、脊髄・脳槽の造影を施行したところ、脊髄造影では、移植骨の圧潰、第三頸椎による脊髄の圧迫が認められたが、脳槽造影では、造影剤消失の遅延はあつたが、脳室への逆流は認められず、正常圧水頭症の確定的な所見は得られなかつた。

そこで、箕倉医師は、圧潰された移植骨を除去し、脆弱な腸骨でなくセラミツクを使用する再手術をすることを決め、同年一〇月七日に入院させた上、同月九日、右手術を施行した。その結果、頸の正常な湾曲を保持するに十分な大きさのセラミツクを挿入することができなかつたものの、八割程度の修正がされ、硬膜脊髄管への圧迫もほぼなくなり、下肢の筋力低下も改善し、歩行も安定してきたので、同年一二月五日退院した。ところが、歩幅の広いヨチヨチした歩行は改善されず、歩行障害が発現してきたことから、同医師は、脳室周囲に脳脊髄液が吸収される所見は認められなかつたが、脳室拡大、造影剤消失遅延に着目して正常圧水頭症の可能性を疑い、脳室腹腔シヤントー手術(脳室に貯溜した脳脊髄液を腹腔内に放出する手術)を決定し、平成四年三月一一日、原告を入院させ、翌一二日、右手術を施行した。更に、右手術での腹腔内へのチユーブ挿入が完全でなかつたので、同月二四日、再手術により確実に再挿入した。右手術後、原告の歩行はスムースになり、同年四月五日、退院した。しかし、平成四年三月一五日ころには、原告には計算力低下等の痴呆症状が認められるようになつた。

なお、平成三年七月以降同四年三月までの通院実日数は三五日である。

(四) 原告は、右シヤントー手術後、一旦は歩行が滑らかになつたが、平成四年五月末ころから歩行時に浮くような感じがするようになり、同年六月ころには歩行がよぼよぼになり、同月一六日には深部腱反射の亢進、第四頸椎レベル以下での知覚鈍麻が認められ、その後も、ふらつき、頭痛、四肢の筋力低下、記銘力障害などの症状を訴えるようになつた。そこで、同年七月二七日と二八日の両日、検査入院して、シヤント流テストを受けたが結果は良好であつた。しかしながら、その後も頭部不快感やふらふらして歩けないと訴えたため、同年九月一八日と一九日の両日、入院の上、造影検査を受けたが、特に異状はなかつた。

その後も、原告は、通院して経過観察を受けてきたところ、ふらふら感が幾分改善したと述べたこともあつたが、ひき続き、頭重感、ふらふら感を訴え、さらに、歩行しづらくなつたと訴えるようになつた。そして、平成五年一月三〇日、原告(当時六一歳)は、箕倉医師の紹介により関西医科大学附属病院精神神経科の医師の診察を受けて、症状固定の診断を受け、後遺障害として「構成障害、計算障害著明、コース組合せ立方体テストではIQ測定不能。長谷川式痴呆スケールでは一八/三〇と痴呆範囲。CT、MRIで前頭葉皮質下に異常陰影有り。書字拙劣、記銘力障害高度。」等の症状が認められ、等級表五級二号に該当するとの認定を受けた。

なお、平成四年四月以降右症状固定までの通院実日数は、一〇七日である。

(五) 本件事故による受傷時から平成五年一月一四日までの間に撮つた原告のCT写真及び右写真から求めたエバンス指数(エバンス指数は、脳室拡大判定の一方法であり、前角の最大径を頭蓋骨内板の最大径で除したもの、〇・二五以上では拡大を疑い、〇・三以上では拡大は確実であるとする)をみると、原告は、受傷直後からすでに軽度の脳萎縮があつて脳室が拡大気味であつたが(なお、受傷直後のCT写真は左側頭葉に硬膜下血腫があつて脳実質と頭蓋骨内板との境界が少しぼけているので、頭蓋骨内板の最大径がはつきりせず、エバンス指数は〇・三を超えない可能性はある。)、本件事故前は、特に脳室拡大をきたす原因となる特別な疾患もなく、通常の日常生活を送り、朝七時ころに出勤して午前八時から午後六時まで働いていた。

2  以上の事実を前提に本件事故と原告の痴呆症状との相当因果関係・寄与度減額の有無について検討する。

原告には本件事故前には脳室拡大をきたす特別な脳疾患はなかつたが、受傷直後から軽度の脳萎縮があり、脳室が拡大気味であつたことから、老人性の脳萎縮による脳室拡大の可能性を全く否定することはできず、右脳室拡大が原告の痴呆症状に何らかの影響を与えたであろうと推認できる。しかも、本件事故による原告の頭部への衝撃については、本件事故直後のCT写真ではクモ膜下出血が認められず、硬膜下血腫の診断のみであり、保存的治療により一か月足らずで軽快し、退院を許可されている。

しかしながら、原告の受傷直後のCT所見に関しては、前記のとおり、クモ膜下の出血がある程度流れてしまうことでCT写真上明らかにならない場合があるし、CT写真では分からない脳挫傷が存在している可能性も否定できないうえ、原告には、入院当初、意識障害Ⅱがあり、右片麻痺と右顔面神経麻痺の症状が出現していることに照らせば、脳挫傷の存在を全く否定してしまうことができず、クモ膜下に髄液、その下に脳があることから、右脳挫傷の際にクモ膜下出血が引き起こされていた可能性も考えられる。また、本件事故後生じた歩行障害については、当初、第三ないし第四と第四ないし第五頸椎の硬膜脊髄管への圧迫に起因したものと判断されて前方固定術が施行(二回)され、歩行障害の原因となる頸部の状態が一応解消され、一旦歩行障害が改善されたにもかかわらず、再び歩行障害が出現したこと(脳萎縮による脳室拡大の場合は歩行障害は生じにくいこと)を勘案すれば、脳室周囲に脳脊髄液が吸収される所見は認められないが、脳室拡大、造影剤消失遅延の所見からみて水頭症の疑いを全く捨て去ることはできず、むしろ事後的にみれば、外傷性クモ膜下出血に起因した脳脊髄液の吸収障害による水頭症による歩行障害とみることができる。そうだとすれば、脳室拡大の状態の脳が外傷を受けて脳脊髄液が吸収障害を起こす水頭症が発症し、右水頭症から痴呆症状が発現したものとみるのが相当である(硬膜下血腫の位置から左頭頂部付近に外傷を受けたものと認められ、他方、痴呆の原因となる疾患は前頭葉に認められるが、外傷箇所と障害箇所が必ずしも一致しない外傷性脳障害の実情に照らせば、左頭頂部付近の外傷に起因して前頭葉に痴呆疾患が生ずることも十分に考えられる。)。

以上によれば、原告の痴呆症状は、受傷前からすでに存した脳萎縮を伴う脳室拡大に加え、本件事故に起因した外傷性の水頭症が発症したために生じたものと考えるのが相当であるから、本件事故と原告の痴呆症状には相当因果関係が認められ、右痴呆発症の機序及び前記認定した原告の症状の推移、治療経過を勘案すれば、原告が受傷前から有していた脳室拡大の素因が痴呆発症に与えた寄与度は四割と認めるのが相当である。

三  損害(円未満切捨て)

1  入院雑費(請求額一九万一一〇〇円) 一九万一一〇〇円

原告は、本件事故により、前記のとおり、守口生野病院において、平成二年一一月二七日から同年一二月二二日まで、平成三年五月七日から同月八日まで、同年六月六日から同年七月一日まで、同年九月二六日から同月二八日まで、同年一〇月七日から同年一二月五日まで、平成四年三月一一日から同年四月五日まで、同年七月二七日から同月二八日まで、同年九月一八日から同月一九日までの合計一四七日間にわたり入院治療を受けたところ、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円と認めるのが相当であるから、右費用は、一九万一一〇〇円となる。

2  付添看護費(請求額六万円) 四万〇五〇〇円

甲六及び弁論の全趣旨によれば、原告の妻は、本件事故当日から九日間、原告に付添つたことが認められるところ、前記した原告の症状等に照らせば、近親者による右付添看護は必要であり、一日当たりの付添看護費を四五〇〇円と認めるのが相当であるから、右費用は四万〇五〇〇円となる。

なお、原告は、右の外に、平成三年六月七日、同年一〇月八日、平成四年三月一二日の付添費を主張するところ(甲六)、前記症状に照らし、右付添看護の必要性は認められない。

3  休業損害(請求額五三八万二九七二円) 五三八万二九七二円原告は、本件事故当時、株式会社オー・エス・シーに警備員として勤務し、給与として平成二年一〇月分二三万三〇七〇円、同年一一月分二一万三九二〇円を得ていたが(甲五の1)、前記のとおり、本件事故日より症状固定まで、治療を受けたため、平成二年一一月二八日から平成三年一月三一日までの六五日間と同年六月一日から症状固定日である平成五年一月三〇日までの六〇九日間、欠勤を余儀なくされ、その結果、右期間中の給与を得られず、また、平成三年度上期賞与を三万四一〇〇円減額され、平成三年度下期と平成四年度下期の各賞与一五万円、平成四年度上期賞与一一万円を支給されなかつた(甲五の2、3)。したがつて、本件事故により原告が受けた休業損害は、以下の算式のとおり合計五三八万二九七二円となる。

(233,070+213,920)÷61×65=476,300

(233,070+213,920)÷61×609=4,462,572

34,100+(15,000×2)+110,000=444,100

4  入通院慰謝料(請求額二六五万円) 二六五万円

原告は、前記のとおり症状固定までに一四七日間の入院治療と通院実日数一五九日間の通院治療を受けたところ、前記治療経過等の諸事情を勘案すれば、原告の本件事故による入通院慰謝料は二六五万円と認めるのが相当である。

5  後遺障害による逸失利益(請求額一五三七万九八三九円) 一五〇六万九九〇八円

原告は、前記のとおり、本件事故により痴呆症状を伴う等級表五級二号に該当する後遺障害を負つたことにより労働能力の七九パーセントを喪失したことが認められる。そして、原告(症状固定時六一歳)は、前記のとおり、本件事故当時、月収二二万三四九五円(前記の平成二年一〇月分給与と同年一一月分給与の平均額)と年間賞与二六万円(上期一一万円、下期一五万円)を得ていたので、右年収二九四万一九四〇円を就労可能年数の九年間(平均余命一九・三一年の二分の一)得られた蓋然性が認められるから、以上を前提にしてホフマン式計算法により中間利息を控除して、右逸失利益の本件事故時における現価を計算すると、次のとおり、一五〇六万九九〇八円となる。

29,419,40×0.79×(9.251-2.7130)=15,069,908

6  後遺障害慰謝料(原告の請求額一五七四万円) 一二〇〇万円

前記後遺障害の内容、程度等からすれば、後遺障害慰謝料は、一二〇〇万円をもつて相当と認める。

7  右1ないし6の合計三五三三万四四八〇円に第二、二3記載の当事者間に争いのない損害二八七万二九七〇円を加算すると、三八二〇万七四五〇円となるところ、前記認定の〇・五割の過失相殺と四割の寄与度減額をし、前記争いのない既払金一八七九万四一九四円を控除すると、二九八万四〇五二円となる。

38,207,450×(1-0.05)×(1-0.4)-18,794,194=2,984,052

8  弁護士費用(請求額二〇〇万円) 三〇万円

本件事案の内容、認容額その他諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額は三〇万円が相当である。

三  以上によれば、原告の請求は、金三二八万四〇五二円及び弁護士費用を除いた内金二九八万四〇五二円に対する本件事故日である平成二年一一月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 下方元子 佐々木信俊 島村路代)

別紙 <省略>

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